私は宇多田ヒカルの歌の中で一、二を争うぐらいPassion(2005年12月発売、ULTRA BLUEに収録)が好きである。
ただPassionの歌詞はよく分からない。
ここでは、私がこの11年間で考えたPassionの歌詞の解釈について書いていきたいと思う。
Passionの歌詞で最も議論されているのは「昔からの決まり事を たまに疑いたくなるよ」という部分の昔からの決まり事とは何か?ということだと思う。
私がインターネットで調べたところこれには王道の解釈がある。
それは、その前に登場する「冬に子供が生まれる」「ずっと前に好きだった人」が実は女性であり、女性どうしでは子供が作れない(または結婚できない)というのが「昔からの決まり事」だというものである。この解釈だと、この後の「私たちに出来なかったこと」が子供を作ることだと一元的に説明できる。
同じULTRA BLUEというアルバムに収録されているMaking Loveという(あまりにド直球な笑)歌が女性同性愛をテーマにしていることもあり、この解釈は一見突拍子がないようにも見えるが納得はしやすい。
また、もっとマイルドな解釈として、「いつか運命の人と結ばれること」「家族制度や一夫一妻制(愛し合うのは1人対1人でなければならない)」といったものもある。
ただ、宇多田ヒカルのPassionに関する取材記事やブログなどを読んで、これは恋愛関係の決まり事ではないと私は考えている。
うろ覚えでソースは提示できないのだが、確か宇多田ヒカルはPassionについて
「老人が自分の人生を振り返るイメージ」「今だけがあるのではなく、過去の自分も現在の自分も未来の自分も共にいる」「数十年も経つと人は物質的にはほとんど別物になっているが、それでも変わらないのは情熱」というようなことを語っていた気がする。(かなり記憶が曖昧)
そして、公式ブログで紹介されているPassionのボツ歌詞が「密やかな情熱がいつも時代を動かす」である。
※Passionの歌詞の中ではPassionや情熱といった言葉は使われていないので、なぜPassionというタイトルなのかという問いへのヒントはこれだけ。
こうしたことから、私はPassionという歌のテーマは「時間」だと思っている。
「昔からの決まり事」は時間が流れて行って、元には戻らないという時間の概念なのではないか。
時間が流れて行って元には戻らない。今でも自分の中には「ずっと前に好きだった人」と一緒にいた頃の過去の自分が存在している。好きだった人とは別れてしまって、もう二度と戻れない、冬には子供が生まれるという現実が受け入れられないときがあるという意味だと考えている。
ここも謎の多い歌詞である。
なぜなら「出来なかったこと」は当然やっていないわけである。やっていなければ懐かしく思うというのは少し変である。
「出来なかったこと」の解釈は様々で、子供を作ること、交際を継続すること、他の些末なこと等いろいろ考えられる。では「懐かしく思う」という言葉はどのような意図で使われたのか。
これにはいくつか考え方があって、1つめはやろうとしたけれどもできなかった、そのやろうとした過程の思い出を懐かしく思うという最も素直な考え方である。、
2つめは今なら出来ることが、過去には出来なかった、そんな過去の未熟な自分たちを懐かしく思うという考え方である。
2つめの考え方に加えて、
3つめはPassionは全体を通して、特に「ずっと前に」~「年賀状は写真付きかな」では明確に過去に思いを馳せているが、そういった過去のことに対して「懐かしい」という言葉を用いることで最後にバッサリと区切りをつけているという考え方である。
過去から現在まで一続きの出来事に対して、「懐かしい」という言葉は使わない。
時間は進んでいって元には戻らないという「昔からの決まり事」をたまに疑いたくなるが、それでも「懐かしく思う」ということはやはり時間は進んでいるのだと自分を納得させて歌の終わりとともに現実世界に戻ると私は解釈している。
Passionでは謎の呪文が所々挟まっていて、これは「I need more affection than you know」の逆再生である。
昔はインターネット上で「I need more passion than you know」の逆再生なのではないかという説も語られていた。こちらの方がタイトルがPassionである理由を説明しやすいような気もするが、これは誤りでaffectionがファイナルアンサーのようだ。
しかし、このフレーズの意味が私にはよく分からない。まず、おそらく何らかの恋愛関係が破綻したのは過去のことなのに、なぜこの文のneedは現在形なのか。(今もaffectionが必要だということが変わっていないのなら現在形でいいのか?)そして、youとは誰か。
「調子にのってた時期もあると思います」(道)のように作詞者(I)が聴衆(you)に語りかけている歌詞だったら面白いなと思ったり、「私たちに出来なかったこと」が「I need more affection than you know」と伝えることだったのかなと考えてみたりしているが、これはまだ自分の中で答えが出ていない。
ということで、Passionは歌詞がおもしろい。
ここで書ききれなかった歌詞の考察やSanctuaryとの関連についてもいろいろと考えてはいるので、いつか書く。
本当はメロディや曲の構成がもっとおもしろいのだが、これについては私に音楽の知識がないので語ることができない・・・