Alexander C. Stahn, Hanns-Christian Gunga, Eberhard Kohlberg, Jürgen Gallinat, David F. Dinges, Simone Kühn: Brain Changes in Response to Long Antarctic Expeditions,N Engl J Med 381:2273-2275, 2019
https://doi.org/10.1056/NEJMc1904905
ドイツの南極基地に14か月間滞在した9人(男5人、女4人)の頭部MRI画像、認知能力、血清BDNF(脳由来神経栄養因子)値を評価した研究である。
医学的理由によりMRI撮影ができなかった1人を除く8人について、南極探検の2ヶ月前と1か月半後に頭部MRIを撮影した。認知能力とBDNF値については探検前後と探検中1か月に1回、9人全員の評価を行った。
対照群として、身体状態※が被験者と同等であり南極探検に参加しなかった9人についても同じ項目を評価した。
※年齢、性別、身長、体重、VO2max、海馬体積
南極において4月から8月は厳しい冬の期間であり、闇に包まれて気温は-50度にまで達する。
南極探検は12月から翌々年2月(夏→冬→夏)の14か月間にわたって行われた。
隊員は学者、エンジニア、医師、電気技師、無線技士、調理師から構成された。隊員以外とのコミュニケーションは衛星電話と最低限のインターネット通信のみであった。
対照群と比較して、南極探検を行った群は探検後に海馬歯状回(DG)の体積が有意に減少(平均-7%)した。
その他の海馬領域も体積の減少を認めたが、有意差はなかった。
その他、左海馬傍回(PHG)、右背外側前頭前野(DLPFC)、左前頭眼窩野(OFC)も有意に体積が減少(平均-3~4%)した。
南極探検の開始から約4か月後に血清BDNF値の減少(平均-45%)を認め、帰還から1.5か月経っても回復しなかった。
血清BDNF値の減少は海馬歯状回の体積減少と相関していた。
同じ認知能力テストを繰り返し行ったため、慣れによって数値上は認知能力が上昇した。
そこで認知能力テストの結果と海馬歯状回体積の相関関係を評価したところ、空間処理テストと選択的注意テストの結果については海馬歯状回の体積との相関を示した。
南極探検によって海馬歯状回体積と血清BDNF値の減少を認めた。
動物実験では刺激の少ない環境(environmental deprivation)に対して海馬歯状回が脆弱であることが示されていて、そのような知見とも一致する結果となった。
ただし、南極探検のどのような側面が海馬歯状回の体積の減少に最も影響を与えたのかについてはまだ研究が必要である。
海馬歯状回では新生ニューロンが産生され、些細な変化を見分けて記憶することに関わっているといわれている。
帰還後長期にわたってフォローした場合に海馬歯状回の体積がどのように変化するか知りたい。
関わる人が少ない、行動範囲が狭いといった南極に特異的でない要因の影響が大きいのか、極夜や白夜といった南極特有の環境条件の影響が大きいのか興味がある。
また、空間処理能力を測るためのSpatial Manikinテストの詳細について調べてもよく分からなかった。
南極に行きたくなったから。